大判例

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高知地方裁判所 昭和43年(わ)260号 判決

主たる事務所所在地

高知市帯屋町五四番地

株式会社玉井会館

代表取締役畠山玉重

本籍

安芸市伊尾木二、二二三番地

住所

高知市帯屋町五四番地

会社役員

畠山玉重

大正一〇年一〇月三〇日生

右被告人両名に対する法人税法違反被告事件につき当裁判所は検察官萩原三郎出席の上審理し次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社玉井会館を罰金四〇〇万円に、被告人畠山玉重を懲役六月に各処する。

被告人畠山玉重につき本裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用については被告人畠山玉重の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社玉井会館(以下単に被告会社という)は高知市帯屋町五四番地にその本店を、同市同町二五番地にニュー玉井支店、同市浦戸町七四番地にはりまや支店(昭和三九年一一月までは同市同町一一番地に所在)、同市本町八三番地に本町支店、同三九年一〇月までは同市堺町一五番地に堺町支店をそれぞれ有し、パチンコ遊技場を経営しているもの、被告人畠山玉重は被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人畠山玉重は被告会社の業務に関し、昭和三九年四月一日より同四〇年三月三一日に至る事業年度における被告会社の実際の所得は三、七八九万七、八〇三円であり、これに対する法人税額は一、四二五万八〇〇円であるにもかかわらず、これを売上収入の除外などの不正の手段により、同四〇年五月三一日高知税務署長に対し、前記事業年度における被告会社の所得は三七六万九、二四三円であって、これに対する法人税額は一二八万二、二九〇円である旨の虚偽の法人税申告書を提出し、もって同事業年度における法人税一、二九六万八、五一〇円を逋脱したものである。

(証拠の標目)

略語例 43・4・30は昭和四三年四月三〇日を、第六回とは第六回公判調書を示す。

一  豊永金晴、山崎幸子、池田鶴亀、森岡五月、山本敬造、三谷静枝、泉谷徳市、島崎益、井上進(二通)、尾崎貞利、塩田正英、山本正男、合田茂平、中平秀喜(三通)、西山栄一、勝賀瀬一雄、小松為次の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  豊永金晴、島崎益、井上進、香川俊夫(三通)、川竹光男、戸梶賢、畠山華子(43・4・30)の検察官に対する各供述調書

一  岡崎忠雄、野中清一郎、枝常茂、阿波銀行高知支店長、森田誠之、田所宗一、大坪博作成の各上申書

一  田辺正夫、垣内進作成の各回答書

一  安芸市長(二通)、三和銀行高知支店長(二通)、高松相互銀行高知支店長(四通)、四国銀行帯屋町支店長、高知相互銀行本店営業部長(三通)、高知税務署長作成の各証明書

一  香川俊夫作成の「法人決議書写」、「株式会社玉井会館の脱税額の変更について」、「貸玉料とフレーブ仕入の月別対比等について」と題する各書面

一  登記官作成の登記簿謄本

一  押収に係る当裁判所昭和四四年押第一二六号の一ないし三八(内訳は別紙押収物総目録記載の通り)

一  証人畠山華子(第六回)、同山下照子(第七回)、同川竹光男(第八回)、同戸梶賢(第八回)、同桑原功(第九回)、同野島勝(第一〇回)、同畠山美恵子(第一二回、第一三回)の各供述部分

一  証人畠山美恵子、同山中吉子の当公判廷における各供述。

一  被告会社代表者作成の上申書(42・11・2)

一  被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書(二四通)、検察官(九通)に対する各供述調書及び当公判廷における供述

なお本件についての重要な争点について付言する。

(一)  (貸玉料の過大算出について)

検察官は貸玉料の算出の基礎を押収に係る手帳(昭和四四年押第一二六号の一七)の記載及びこれに対する被告人の説明に置いている。これによると右手帳の記載に至るまでの経緯は次の通りである。被告会社の各支店の支店長は毎日午後四時頃及び閉店後の二回にわたって本店事務所に二枚のメモ(一枚(以下甲メモという)は支店長が記入したものであって、当日の玉売機の表示によって計算された売上金額(これを「A」とする)、景品メーターの表示によって客から受け入れた玉数から計算された客に払い出したフレーブの金額(これを「K」とする)、当日のフレーブの払出数を「小」欄にその「小」欄の数に〈省略〉を乗じた数を「大」欄に記入したもの、他の一枚(以下乙メモという)は各支店の売上担当係が記入したものであって景品交換人に支払ったフレーブ代金をその支払いごとに「入」欄に記入し(この際当該支店において当日のフレーブ代金支払いの手持現金が不足した場合、他の支店から支払金を借りたり、又本店事務所から直接支払ってもらったりした時は「入」欄の下にそれぞれ「〇〇支店より借り〇〇円」「事務所より〇〇円」などと記入し、その下の「残」欄に当日の現金現在高を記入する(但し前記のように他支店から借りたり、本店事務所から支払ってもらった時にも残高をマイナスとはすることなく現実の現金を基準とし〇円以下の記入はしない))と当日の残高現金を持参し、これを被告人の妻畠山美恵子(不在の場合は被告人)が受取って右甲、乙メモの記載と現金とを照合確認した上、被告人において各支店ごとに前記手帳の当該日欄の左側に残金額(乙メモの「残」欄の金額と一致するのが原則であるが、「他支店からの借り出し」「本店事務所からの直接支払」などがあった場合はこれを残高から差引くなど調整し、マイナスになる時は赤字で記入する)を、右側に甲メモの「大」欄の数(フレーブの払出数の〈省略〉)をそれぞれ移記した。その後当日の売上額及びフレーブ支払額よりの除外額を決定して、その旨をそれぞれ甲、乙メモに記入し翌朝本店経理係員(昭和四〇年二月までは畠山華子、右以降は北村治子)に渡し、これに基づいて右除外後の各金額を正規の帳簿に記入さした上、右甲、乙メモは廃棄した。客に渡したフレーブは殆んど(客が自己の用に処分するものは統計上払出フレーブ数の約〇、一%である)当日中に景品交換所に持ち込まれて現金に交換(フレーブ一個につき八〇円)され、景品交換人は交換した右フレーブを翌日各支店に持ち込み、各支店は景品交換人が買入れた代金と同額の代金を景品交換人に支払う仕組になっていた。そこで当日の貸玉料(売上高)を計算するためには手帳の右側の前日の数字からその〇・一%を差引いた残りを逆算(80円×4×「大」欄の数)した金額に、左側の当日の残金額を加えればよいことになるが、検察官も右方法によって算出している。ところでもし弁護人主張のように本店事務所から各支店を通じないで直接景品交換所にフレーブ代金が支払われ、それが右手帳の記載に反映されていないとすれば検察官の右算出方法は正にその基盤を失うことになる。そこで考察するに、(1)本店事務所より直接支払いのなされたことがある事実は前記各証拠によって認められるが、右の直接支払いは極めて例外的な場合即ち、開店早々の時期、雨天の時など特殊な時期にたまたまフレーブの払出額(金額に換算して)が売上額を上廻った場合であることは右直接支払いを担当していた証人畠山美恵子の証言によって明らかであり、(2)右手帳は昭和三七年一月ごろから同四二年六月ごろまでの間連続して被告人によって記載されて秘密に保管されていたものであってその記帳の目的は「パチンコ台の釘の調整及び営業上の参考のため毎日の各支店の成績を正確に記載する」ものであって弁護人主張のように事務所よりの直接払いが右手帳に反映されていなければ右目的のためにはその用をなさないこと、(3)既に説示したように「他支店からの借り」「本店事務所からの直接支払」については甲、乙メモより手帳に移記する際調整済であり、その証拠に右側に赤字によるマイナスの記載があることなどの事実よりすれば右手帳の記載に基づく貸玉料(売上高)の算出方法は正当であって誤りは認められない。

(二)  (検察官主張の昭和三九年度の貸玉料とフレーブの仕入額との比率が異常に高いとの主張について)

前記各証拠特に香川俊夫作成に係る「貸玉料とフレーブ仕入の月別対比等について」と題する書面によれば昭和四〇年度の業績低下傾向にあることは認められるがこれは同四〇年七月より九月にわたって本町支店が改築のための休業状態にあったことが原因の一端とも推定される一方同四一年度の後半からは同三九年度に近い業績に回復していることが認められる外同種法人との業績対比の結果によっても特に被告会社の昭和三九年度の業績のみが異常であるとは認められない。

(三)  (被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書記載の供述の信用性について)

被告人は小学校を卒業したのみで帳簿の記載、貸借対照表、損益計算書等の見方もわからず、帳簿の記載、各種申告等は一切税理士に委していたもので本件の査察に当たっては査察官の質問に対して解らないまま帳簿がそうなっているならそうでしょうというように答えてその旨の供述が質問てん末書に記載されているので右供述は信用できない旨主張する。成程被告人は会計諸帳簿の記帳及びその読解能力が低いことについては推察するに難くないが、被告人が特に争う貸玉料の過大算出の基礎となった前記手帳は被告人が自ら考案した上で記入したものであってその動機、方法等については被告人以外誰も知っている者はなく、その上右に関する質問てん末書の記載の供述は極めて自然で昭和二四年よりパチンコ営業を続けている被告人の多年の経験に基づくものと考えられ特に弁護人主張のような経理能力を必要としないものであって、右証拠による貸玉料の算出額は他の証拠による関連事実との対比によるも矛盾はない。その上被告人に対する大蔵事務官の取調べによる質問てん末書の作成は昭和四二年六月一二日より同四三年三月二日までの間に二四通であり、その間は不拘束のままの取調べで特にごう問、長時間の取調べなども認められず、その内容についても特に不自然のものは認められないので被告人の前記供述は信用するに充分である。

(法令の適用)

(事実) 法人税法(昭和四〇年法律第三四号による改正前のもの)第四八条第一項、第五一条第一項(但し第五一条第一項は被告人株式会社玉井会館についてのみ)、法人税法(昭和四〇年法律第三四号)附則第二条、第一九条

(刑種の選択) 懲役刑(被告人畠山玉重につき)

(執行猶予) 刑法第二五条第一項(被告人畠山玉重につき)

(訴訟費用の負担) 刑事訴訟法第一八一条第一項本文(被告人畠山玉重につき)

(裁判官 板坂彰)

押収物総目録

押収番号 昭和四四年押第一二六号

〈省略〉

総目録別紙

符号14号内訳

登記済証三六通、就業規則一通、従業員給与規定一通、登記簿謄本二通(内一通は付属書類四枚添付)、公正証書謄本二通、売買契約証書(付属書類含む)四通一綴、証明書(登記事項に変更がないこと及びある事項の登記がないことの証明申請書含む)二通、預り証一枚、メモ二枚

符号15号内訳

登記済証書等一綴(全一〇枚)、借用証書一二枚、封書三通、図面四枚、計算書綴一(全二一枚)、契約書差入証各一枚、領収書六枚、計算書等綴一(約束手形三枚含む)、請求書綴一(七枚)、第四期貸借対照表一綴(二枚)、第四期営業報告書一通、株式申込受付票一枚、証明書一枚(承諾書二枚添付)、雑書三〇枚、「説明はこうして」と題した書面綴(四枚)、空封筒(畠山玉重宛)一枚、約束手形綴一(三枚)

符号33号内訳

大川筋寮新築工事設計図一冊(九枚)、登記簿謄本綴一綴(六八枚)、その他(貸出申請書等)一四八枚(白紙一枚を含む)

符号34号内訳

担保物件綜合表(五枚)、利迴表一冊(白紙二枚を含んで二八枚)、法人信用調書(一枚)、その他(貸出申請書、利迴表等)(八五枚)

符号35号内訳

貸出申請書(担保解改申請書、期限延長申請書を含めて八枚)、登記簿謄本(登記済証を含めて三枚)、担保物件綜合表(四枚)、その他(六枚)

符号36号内訳

貸出申請書(七枚)、大口貸出事前協議通知書外一綴(八枚)、大口貸出事前協議書外一綴(七枚)

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